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東京高等裁判所 昭和36年(く)107号 決定 1961年11月22日

少年 S(昭一七・三・六生)

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告の要旨は、左のとおりである。少年は、他の少年数名とともに窃盗や住居侵入の罪を犯したかどにより原裁判所の審判を受け、医療少年院に送致する旨の決定がなされたものであるが、この処分は、著しく不当である。すなわち、少年は、知能が著しく低く、痴愚級の精神薄弱者であつて、これがため、劣等感が強く、自分をよく見せようとして無理をして友人におごつたり、意表外な行動に出て英雄を気取つたりする傾向がある。少年が本件非行をなすに至つた動機も、右のような性格に由来するものであつて、他愛ないものであるが、悪質なものとはいえない。しかも、親の奨めに従つて自首したところからみても、自己の行為が反社会的行為であつたとの意識と反省を持つていることが認められ、また、少年鑑別所に収容されていた間の状況から判断しても、反省の色の著しいものがあると認められる。少年は、非行回数は多いが、少年鑑別所に収容されたことによつて後悔し、父親の面会があつたことなどが加わつて家庭への思慕の念を高めているので、少年については、むしろ、これを、在宅保護により、両親の愛情と然るべき指導者の教育とに委ねる方が、良好な結果が期待されるのであつて、原決定のように医療少年院に送致するならば、かつて少年が精神病院に入院させられたため大人や社会に対する不信と反感、あるいは拒否的防衛的態度がますます昂進したように、却つて悪い結果を産むおそれが多分にある。このように右処分は著しく不当であり、原決定は取り消さるべきものであると。

そこで、記録に徴し、少年の生立ち、知能、性行、従前の非行歴、家庭状態、環境、本件非行の動機、態様、回数、その後の状況、その他諸般の事情を考量し、ことに、少年が痴愚級の精神薄弱者であること、本件以前にも二度家庭裁判所に窃盗と傷害との保護事件が係属したことがあること、本件非行が窃盗四七回、同未遂一回及び家宅侵入一回でその回数が極めて多く、いずれも夜間の行為であり、窃盗関係のものも深夜の家宅侵入によるものが多いこと、これらの非行の大部分が自己より年少の友人らとの共同にかかるものであつて、少年がその主動的地位にあつたものであること及び少年には両親があるが、その保護能力は、期待するに足りないことを思うときは、少年に対しては、所論のような在宅保護による更生を望むことはできないのであつて、医療少年院に収容して社会生活に適応するように医療を含む矯正教育を授けることが相当であると認められるのであるから、原決定が著しく不当な処分であるとしてその取消を求める本件抗告は、もとより理由がないものといわなければならない。

よつて、少年法第三三条第一項後段により、本件抗告を棄却することとし、主文のとおり決定する。

(裁判長判事 尾後貫荘太郎 判事 堀真道 判事 堀義次)

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